三良貴代美さん(前編)

 あくまで一般的な認識として、統合失調症の発症年齢は10代後半から30代頃がピーク、平均発症年齢は男性では20代半ば前後、女性ではそれよりやや後の年齢と言われる。
 では、小学校3年生(8-9歳)の女の子が、ある日を境に、「友達が家にカメラをしかけている」「お母さんが誰かにさらわれる」といった妄想を口にし始め、ソファから立てない、お風呂に入れない、着替えられない、眠れない、食べても味がしないといった症状が出始めたとしたら、、、

 それが、三良さんが実際に直面した、娘さんの現実だった。三良さんは看護師だった故に、すぐに「統合失調症と同じ症状と認識した」が、病院の認識は違った。
 精神科に電話すれば、「その年齢でそんな症状が出るなんて考えられない」「その年齢では薬の調整ができない」と言われ、診てくれる病院さえ見当たらない。でも、学校のスクールカウンセラーからは「カウンセリングのレベルではない」と受診を勧められてしまう。
 やっと隣の自治体に探し当てた児童精神科を受診するも、医師からは発達障害や学校での問題の可能性を指摘され、そうではない証明のために、学校の通知表まで持ち出した。
 その後、精神疾患の診断は下りないものの、服薬が始まったことで「少しずつ前の娘に戻っていく感覚があった」が、偏食になったことで肝臓の数値が悪化して入院を提案される。一般的に、病気やケガによって入院した子供たちには、学び続けられる『院内学級』があるが、精神疾患を受け入れてくれる院内学級は大阪府内で2か所しかなく、さらに入院するにも苦労した。
 いざ退院となれば、その頃には妄想の症状もおさまっていたからか、ついた診断は、親との愛着形成がうまくいかずに情緒や対人関係に問題を抱える状態を指す『愛着障害』。周囲からはそんなわけないと言ってもらえたが、「母親として何かいけなかったのか」と自分を責めざるを得なかった。
 看護師として症状を理解していたのに、診断名は二転三転した。病院の医師にも「子供でも精神疾患を発症することが認知されていない」ことを実感した。
 
 三良さんは、同じように精神疾患の家族をもつ「当事者家族会」にも頼った。
 「自分の娘の予測できない言動を怖いと思ってしまった自分にショックを受けたんです。”以前の娘に会いたい”と思っても口に出してはダメだと、何度思ったことか。辛すぎて誰かに聞いてもらいたくて、会ったこともない家族会のメンバーにいきなり電話したこともあります」
 泣きじゃくって心情を爆発させると、「そう思ってしまうよね、当然だよ」と言ってもらえて、本当に救われた。「あの電話がなかったら潰れていたかもしれない」と振り返る。
 一方で、家族会の中でも、前述した精神科と同様に「その年齢でそんな症状が出るなんて考えられない」旨の無理解を感じることもあった。後々、同じ学年で発症したお母さんが家族会に参加したことで「間違いじゃなかったんだ」と確信できたが、ここでも、「子供でも精神疾患を発症することが認知されていない」ことを実感した。

 こうした問題意識をもっていた三良さんに声をかけたのが、『シルバーリボンジャパン』の森野さんだった。三良さん同様に、低年齢からの発症の認知とそれ故の教育の重要性に問題意識をもって、脳や心に起因する疾患及びメンタルヘルスへの理解を深め促進する啓発活動を続けていた。
 三良さんは会員から参画し、現在は理事を務めている。

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