宮崎舞さん(後編)
(https://inclusive-hub.com/official_posts/220から続く)
娘さんが『ディスレクシア』であることがわかり、その経験から他の保護者とともに、発達障害の一つである学習障害(LD)の子どもたちの学びのために様々な情報を提供するサイト『カラフルバード』を立ち上げた宮崎さん。
とにかく「みんな情報に飢えている」、だから、できるだけ「情報を出して、選べる状態にしたかった」と話す。
例えば、早く原因にたどり着くには検査が必要だが、検査ができる病院を探すことが大変だった。自治体の病院リストを見ても、実際には検査をしていなかったり、逆にリストにないが検査をしてくれる病院もあった。だから、正しい情報を口コミを通じて蓄積した。
例えば、学校の先生方もどう配慮すればいいかわからなかった。「合理的配慮を錦の御旗にするのではなく」、先生にも過重な負担なく、保護者が「柔らかく調整できるよう」、合理的配慮の細かい手順を一つひとつ示した。将来的には、保護者の要望を代弁する『アドボケーター』にもなれたらいい。
例えば、全国の保護者同士で話せば、地域性はもちろん、その自治体にしかない制度もあった。だから、その地域に特化した情報をXで発信する『地域アカウント』も始めた。ある自治体で手本になる取り組みがあれば、地域アカウント同士で引用し合う。そうすれば、各自治体の首長さんや議員さんが見て、地元でも真似しようとする。
こうした取り組みの結果、「こんな反響があるとは思わなかった」。「適当に勢いで作った」と宮崎さんは謙遜するが、自身の苦しんだ経験を無駄にしないよう愚直に取り組んだ結果だった。
これからも蓄積される情報が増えれば、サイト内で探せない人も出てくる。あくまでユーザー目線に立って広告は入れてこなかったが、今後は検索機能はもちろん、文字ベースだけではなく画像や動画を強化するなど、改善したいところはたくさんある。
仕事の傍らでそこまでは難しい中で「プロの手も借りたい」「最終的には行政にやってほしい」と思いつつも、できる範囲で、今も情報を必要としている方々の期待に応えたい。
そんな宮崎さんの原動力は、シンプルだ。
もし仮に、学校の先生が学習障害に詳しくなく「読み書きができない子は他にもいますよ」なんて話し、保護者も「そんなもんか、うちの子がバカだから仕方ない」なんて思ってしまったら、その子の未来はどうなるだろう。
宮崎さんによれば、学習障害のお子さんのうち、所属する東京の親の会全体でも半分が不登校だそう。「知的な遅れがないのに、教育機会が失われて、差がついてしまう。もったいない」。ご自身の娘さんも「不登校にはならなかったが、紙一重だった」。
対応が遅れれば、未来への影響は大きい。学習障害に関して「中学以上でかかれる病院は激減するので、小児のうちにかかっておかないと次に繋がらない」と宮崎さんは警鐘を鳴らす。将来、「大学入試で合理的配慮を受けるのに診断書が必要と言われても、いきなり高校生で病院に繋がり診断してもらえるところは限りなく少ない」
最後に、こうした取り組みを超えて、宮崎さんは本質的な話もしてくれた。
「読む障害は厳しいかもしれないけれど、例えば、書く障害で言うと、字がきれいに書けないとダメですかね?」
手書きじゃなくてタイピンクでできるのではダメなのか?漢字が書けなくても中身を理解し知識を持っていることが大事なのではないか?宮崎さんはそう問いかけたい。学習指導要領に「漢字で」と記載があるわけでもない。
でも、先生を含め誰しも「社会に出た時のために」と思い込んでしまう。だったら、手書きの字が汚いことなど、社会側が意識しなければいいのではないか。
社会の常識が変わることで、その子に合った対応が当たり前になり、「最終的に、配慮が必要じゃなくなると、いい」
実は、今回ご紹介した『カラフルバード』は、2023年に発足し、まだ何の組織でもない。にもかかわらず、これだけの活動を急速に成長させ、社会インフラとして大きな役割を果たすようになっている。
よく起業=成長と捉えられる。そういう意味では、けん引する宮崎さんやその他の保護者の方々は、もう起業家だろう。組織の形や売上や利益ではなく、社会へのインパクトの大きさこそ、大事。『カラフルバード』が、そう教えてくれている。
【カラフルバード】https://inclusive-hub.com/pages/166