福島憲太さん

「視覚障害者が出版の仕事?って驚かれるかもしれません。おそらくいま日本で唯一視覚障害者が代表を務める出版社です」

 そう微笑む福島さんは、自費出版も手掛ける出版社『読書日和』の代表。そして、「金子あつし」というペンネームで自ら執筆活動する作家でもある。

 生まれつき視覚障害があり、右目の視力がほとんどなく、左目も0.08で日常生活も不自由な弱視。「小さい頃から文章を書いていて、小学生の頃から本を一冊出せたらいいな」と夢見てきた。
 「自分の本を出す」なんて、例え本好きじゃなくても、誰もが一度は頭に思い浮かべる夢ではないだろうか。福島さんは、そんなみんなの夢を叶え、自分の夢も叶える出版社を2018年に起業した。

 起業の地に選んだのは、福井県生まれ京都府育ちの福島さんにとって縁が乏しい静岡県浜松市。そこには、起業家としてのしたたかな戦略があった。
 
「出版社ってどこに多いかご存じですか?東京、大阪、京都の順です。そんな場所で自費出版をしたい人にアピールしても、新参者には厳しい。でも、浜松は人口が多いのに出版社がなく、市も起業家を応援する宣言をしていたんです」

 そうして生まれた浜松の出版社『読書日和』の最大のヒット作は、『あまねく届け!光 ~見えない・見えにくいあなたに贈る31のメッセージ~』。視覚障害のある、見え方も経歴も経験も異なる31名が、就職・転職・就労継続それぞれの観点から「仕事」について発信した。
 書き手の一人ひとりが知り合いに本を届け、多くの図書館に納品され、さらに論文でも引用されるようになり、視覚障害のある当事者やその家族や支援者に広がっていった。

 視覚障害者が代表を務める出版社だからと言って、特に視覚障害に関する本だけを扱うわけではない。起業当初から「小説や詩集やノンフィクションなどジャンルを問わない総合出版社」として歩んできた。
 最新刊は、終戦後に”異国の孤児”として満州から京都・舞鶴に引き揚げてきた女性の記録。「2025年は戦後80周年。戦時中はもちろん、戦後復興についても知らない方が増えていく中で、こうした社会的意義があるテーマを手掛けていきたい」と福島さんは意気込む。
 そして、福島さん自身が執筆した最新刊の舞台は、奄美大島にある宇検村(うけんそん)。なかなか聞いたことのない地名だろう。「これまで本に載ったことがないような地域を取り上げた本をたくさん出したい」という想いがあった。

 「世の中で光が当たっていないものに、光を当てたい。振り返ると、それが軸になっているかもしれません」

 実は、自費出版は「一冊からでも、少ない分量からでもできる」。福島さんがこれまで手掛けた中には、おじいちゃんが詠んできた短歌集を知り合いに50冊配布したり、32ページだけの絵本といった案件もある。

 近年、電子書籍の普及も手伝い、「個人でも簡単に本をつくり販売できる時代になった」。しかし、その先、その本をどうやって広めて残していくかが重要だ。
 「紙の本の強みは、じかに手に取ることができて、直接手渡すことができて、メディアなど色んなところに贈ることもできること。印刷コストがかかっても、まだまだ紙の本の価値は高い」と福島さんは話す。
 そして、本としてISBNコードが付くことで、本屋さん、地域や大学の図書館、そして国立国会図書館にも納品される。「仮に売り切れになっても、図書館に行けば読める。そうやって記録として残せることが大きな強み」とも考えている。

 福島さんが立ち上げた『読書日和』は「一人出版社」。大手のような多額の予算は必要ないし、実際に自費出版するとなれば、じっくり1対1で寄り添ってくれる。
 この世の中で光が当たっていないものは、数多くある。そこに光を一緒に当ててくれる出版社がある。そんな福島さんと自分の本を作ってみたい方は、是非ご連絡ください。

【出版社・読書日和】https://inclusive-hub.com/pages/177
【あまねく届け!光 ~見えない・見えにくいあなたに贈る31のメッセージ~】https://shurojinzaibank.com/topic.php?t=18