佐藤恵理さん
『認知症疾患医療センター』
認知症の医療相談や診察に応じる専門の医療機関であり、都道府県知事または政令指定都市市長が指定する病院に設置され、もの忘れ相談から、認知症の診断、治療、介護保険申請の相談まで、認知症に関する支援を包括的に提供する役割を担う。
東京都内では既に50か所以上が指定されており、葛飾区にある『いずみホームケアクリニック』もその一つ。同院に設置された認知症疾患医療センターで、社会福祉士・精神保健福祉士として最前線に立つのが、佐藤さんだ。
佐藤さんは、「認知症の支援がしたくて、40歳を過ぎて社会福祉士の資格を取った」。
もともと病院の受付として働く中で、近所の高齢者の日々のちょっとした悩みや苦労に耳を傾けてきた。認知症をはじめ本人や家族の生活支援を「やりたくても、やる立場にないから、手を出せなかった」。だから、アルバイトをしながらでも、資格取得を実現した。
そうして念願が叶った認知症支援の現場。
着任して、「(認知症の)患者さんが穏やかで楽しそうにされている方が多くて驚いたし、環境次第でそうなれるんだと実感しました」。
『認知症』と聞くと、特に上の年代の方は、映画化やドラマ化された書籍『恍惚の人』の印象が強いかもしれない。当時はまだ知られていなかった認知症(当時の呼び方は『痴呆症』)の介護問題にスポットが当たったのは良かったが、認知症の高齢者に振り回される家族にネガティブな印象が強く根付くきっかけにもなった。
そんな恐れは、認知症になったら人生終わりなんて気持ちにつながりかねない。
結果的に、本人は「自分の心を守るために症状を認めることを拒否」したり、「他人の世話や迷惑になりたくないと外出しなくなってしまう」。逆に家族がそういった気持ちを持って接すると、それを敏感に察して「本人の周辺症状が悪化してしまう」ケースさえある。
こうしたご本人やご家族の気持ちも十分理解した上で、佐藤さんは「治らない病気は認知症だけじゃないし、そういう病気の方を見ても”人生終わり”なんて思わないはず」と話す。
だからこそ、何か少しでも兆候が見えたら「年相応で済ませずに、少しでも早く相談に来てほしい」。今では、現状を維持するために脳に刺激を与えるようなデイサービスやリハビリも豊富にある。やれることは豊富にあるのだ。
佐藤さんはさらに、「認知症でも普段通り楽しく生活し活躍している人も多い」ことを訴えたい。
現在、厚生労働省や各都道府県も、認知症でも活躍する方々を「希望大使」として任命し、各地で講演してもらうなど普及啓発に取り組んでいる。佐藤さんも「もっと希望大使がクローズアップされてほしい」と願っている。
そして、仮に認知症が進行したとしても、”心残り”が生まれないように。
『ACP(アドバンス・ケア・プランニング)』。認知症になった方のもしもの時のために、本人が望む医療やケアについて前もって考え、その希望や思いを家族や医療・介護専門職と話し合い、共有する仕組み。佐藤さんが積極的に取り組みたいことでもある。
「心残りは必ずある。でも、そんな心残りを少しでも軽減できれば」
さらに、佐藤さんが勤める認知症疾患医療センターが向き合う相手は、当事者やそのご家族に限らない。小学生や中学生もその対象だ。
認知症の発症には、若い頃からの食生活や規則正しい生活やバランスのとれた食事など生活環境も影響すると言われる。そして何より、子どもたちが暮らす地域で認知症の方を受け入れるようになってほしい。そんな想いを込めて、小学校や中学校への出前授業も盛んに行っている。
最後に、佐藤さんは笑顔でこう話してくれた。
「昔は精神障害にネガティブなイメージがあったけれど、今の20代の子は普通に受け入れている。10年20年後には、同じように認知症も(ネガティブではなく)普通に受け入れる社会になると思います。そこに向かって国も都も動いていますから!」
最前線にいる佐藤さんの笑顔だからこそ、そんな未来が想像できた。
【いずみホームケアクリニック認知症疾患医療センター】https://inclusive-hub.com/pages/178