ろう者のshowさん、聴者のtakuさん

　showさんは生まれつき聴覚障害があり、takuさんとは一般校に通っていた小学生時代に出会った。
　当時、showさんは周囲の支援もあり、大変な発声訓練を経て声を出せるようになっていたが、takuさんにとって、出会った最初の頃は聞き慣れないものだった。

　はじめは共通の友人の通訳でコミュニケーションを取ったものの、takuさんにとって「ちょっとしたコミュニケーションが通じただけで嬉しかったし、それは他の（聴者の）友達では味わえない楽しさだった」。そして、「だんだん耳が慣れていったし、（コミュニケーションが）難しいけれど面白かった」と当時を振り返る。

　二人は、共通の友人がいなくても遊ぶようになり、大人になった今でも、Youtube『ShowゆっくりDeafちゃんねる』を一緒に運営する親友だ。このインタビューの際もtakuさんが手話通訳を買って出てくれた。
　
　「僕の場合、手話をちゃんと勉強したことはないです。Youtubeの編集をして何回も見てたら自然とわかるようになって覚えちゃっただけです」
　そう話すtakuさんを見ていると、「あんまり難しく考えず、純粋に話してみたい！って気持ちだけでいいんじゃない？」と言われているような気がしてくる。

　しかし、showさんを取り巻く現実は、必ずしもそういった前向きな気持ちに溢れているとは言えない。
　都会のように多くの仕事があるわけではなく配慮環境も整っていない地方だからかもしれないが、例えば、障害者雇用の面接に行って「耳が聞こえないからダメ」と採用を断られたことさえある。カフェやアパレルなどの接客業も一度やってみたいと思うが、アルバイトそのものが簡単には見つからないのが現実だ。
　そういった状況に、ろう者の友人の中には「地方から都会にわざわざ引っ越す人もいる」ほどだ。「能力に違いはなく、（聞こえる）聴者と同じように働けることをわかってほしい」とshowさんは訴える。

　日常生活にも課題はある。近年、自治体の窓口で手話通訳者が対応してくれるケースも増えてきたが、地方では数少ない通訳者を事前に予約する必要があるし、小さい自治体では通訳者そのものがいない。
　しかし、もしかしたら、問題の本質はそこではないのかもしれない。

　「筆談で対応してくれても、声を出すと聴者と思われてしまい、段々と手元の紙ではなく自分を見て話し始めて、さらに早口になってしまうんです」
　その結果、ちゃんとコミュニケーションを取るために、showさんは逆に声を出さないようにするという本末転倒が起こってしまう。

　筆談ではなくても、最近は音声を文字化してくれるアプリなど技術も進展しているが、showさんは「本当に大事な時以外は使わないようにしている」。
　相手が楽だなと思った瞬間に、自分の障害や抱える不便さを本当には理解してもらえないのではないかという気持ちが付きまとうからだ。
　少しでもshowさんが話せると感じた瞬間に、面倒でも自分のペースに合わせてくれた筆談を中断されてしまうように、少しでも技術の方が楽だと分かった瞬間に、ろう者を理解しようとするコミュニケーションをやめてしまうのではないか。そう考えてしまうのだ。

　もちろんshowさんは、そんな便利さやそれを使ってコミュニケーションを取ろうとしてくれる人を否定したいわけではない。
　ただ、例えば、私たちが一般的に外国語でコミュニケーションを取る場合、事務的なことはアプリで済ますかもしれないが、その人ともっと話したい、深く知りたいと思えば、片言でも、相手の顔を見て相手の言葉で話そうと思うものではないだろうか。
　「見えるコトバ」とも言われ、表情自体もコミュニケーションの大事な一部である手話を使うろう者にとっても、紙やスマホではなく顔を見て話すことはとても重要なのだ。

　showさんは、「簡単な手話でも覚えてくれたら嬉しいし、おはようといった短い挨拶だけでも嬉しい」と話すと同時に、「気楽に手話を始めてほしい気持ちもあるけど近年、手話歌や手話ダンスなど、手話を振り付けとして楽しんでいる方もいます。否定するつもりはありませんが、多くの方が守り、繋いできたひとつの言語なので、そこへのリスペクトは忘れないでほしいです。」とも話す。
　
　数年前に難聴のある主人公の『silent』というドラマが話題になったが、showさん曰く、『silent』を手話で表現すると、「雪」が「静か」と表すそう。文字だけでは手話の形まで伝えきれないことが残念だが、なんて素敵な表現だろう。
　畏まって手話を勉強する必要なんてないと、相棒のtakuさんも教えてくれた。もっと軽い気持ちで、でも決してリスペクトを忘れずに、手話を知って使ってみたらどうだろう。

　そうして手話やろう者に関心をもつ人が少しずつ増えていくことが、最終的にはろう者を取り巻く環境を少しずつ良いものにしていくのではないか。showさんとtakuさんが出会った小学校時代のように、もっと純粋に相手に興味をもつことから始めたい。
　
【ShowゆっくりDeafちゃんねる】https://www.youtube.com/@showohsawa