佐藤大記さん(後編)

前編(https://inclusive-hub.com/official_posts/237

ADHD(注意欠如・多動性障害)とASD(自閉スペクトラム症)の特性からいじめられ、小学校で不登校になりながらも、空手とその師範たちとの出会いを通じて人生が大きく変わった佐藤さん。

中学校では学校の野球部の練習後に道場に通い、夜10時半に帰宅する「圧倒的なハードワーク」を続けた。「ASD特有ののめり込む特性かもしれません」と振り返る佐藤さん。その結果、野球部として秋田県で優勝し、さらに空手では秋田県のみならず東北大会でも優勝、全国大会へ出場という偉業を成し遂げる。両方続けたことで培った運動量は別格だった。

そこから高校、大学と空手の推薦で進学、大学では厳しい上下関係が存在する体育会寮生活も経験。
さらには実業団まで所属して日本のトップクラスで争い続けた。

実業団をもつ会社を通じてスポーツクラブでの空手指導経験を積んだ後、3年前に自らの道場『日本空手道 忍仁会(しじんかい)』を開いた。

道場のホームページにはこうある。「私自身のいじめ被害や不登校の経験を通じて、青少年の育成はもちろん、いじめ問題やADHDなど発達障害に悩むお子様、さらには職場などで辛い思いをしている大人の方々にも寄り添い、理解し、安心できる居場所を提供したい」

実際、佐藤さんの道場に通う生徒の中には不登校や支援級に通う子も多く、他の子より手がかかったり指導が難しいといった理由から他の習い事や空手道場で断られた子どもも積極的に受け入れている。

今は昔とは指導法が違う。まず楽しさから入り、いわゆる昔ながらの厳しい「空手道場」という雰囲気ではない。
しかしかつての道場のように、いじめも嫌がらせもなく、不器用な生徒も成長する姿が見られると自然に拍手が生まれるような温かい雰囲気の道場に多くの子どもたちがやってくる。

佐藤さんはこうした手応えを感じる一方で、「まず人の輪の中に入れない、家から出て道場に来れないといった、本当に困っている子どもも多い」ことにも気づいていく。

そこで新たに始めた挑戦が「不登校、行き渋りの子専門のオンライン空手スクール」その名も『みらい空手スクール』

そのホームページには「学校に行けなくても、自分らしく進める場所がある」と書かれている。この言葉から、前編で紹介した佐藤さん自身の実体験が見えてくる。

佐藤さんが小学生の頃から指導を受けた師範から、聞かされてきた言葉がある。

「強さとは、自分の弱さを知ること。自分から負けること。勝ち負けではなく、素直になって、相手の良いところを探して謙虚に学ぶ。そうすると人生が大きく拓けてくる」

そして師範をはじめ空手道を通じて「小さい頃からそういった大人に出会ってきたことは幸せなことだった。だから、その恩を少しでも次の世代に返したい」と佐藤さんは語る。

道場のホームページにはこうも書かれている。「運動が苦手、不器用でどこに行っても人間関係がうまくいかない、自己肯定感が低いなど、生きづらさを感じている方こそ、どうぞ遠慮なく当道場の門を叩いてください」

全く同じ経験をして、自分の弱さを知り、変わり、強くなっていった師範がその道場にはいる。少しでも多くの人がそこに飛び込み、弱さを知ることから変わっていく。そんな未来がもう想像できる。

【日本空手道 忍仁会(しじんかい)】 https://www.shijinkai-karate.com/
【みらい空手スクール】 https://mirai-karate-school.replit.app/