Tさん(後編)

(前編:https://inclusive-hub.com/official_posts/245

 障害者雇用で勤めた会社を契約満了で辞めると、次は重度のうつ状態が待っていた。
 躁状態とうつ状態を繰り返す『双極性障害』に苦しむ中で、「なんでこんな風になっちゃったのか、、この病気はどんな病気なのか、、」と知りたくても、本を読める状態ではなく、スマホで動画を見るのが精一杯。
 そんな中でも、「オンラインで聞くだけでよくて、布団の中からでもアクセスできるから、心理的ハードルを下げてくれる」当事者の集まりの存在を知っていく。

 同じ障害を抱える当事者の体験談を聞き始めると、「こんなにしっかりとした人が大変な病気を抱えながら頑張っている」ことを目の当たりにして、「自分も頑張れる」と希望をもらい、Tさんの心は上を向き始めた。
 いくつかの当事者団体に顔を出すうちに、特に救われたのが『NPO法人ネット心理教育ピアサポート』。それまでTさんにとっての治療は服薬だけだったが、それに加えて「病気・治療との付き合い方を学ぶ心理教育」を取り入れ、気分が躁でもうつでもない寛解状態を長く続けられるように支援してくれた。
 その結果、Tさんは「自分のペースで回復していけた」。それどころか、NPO法人から声がかかり、今ではボランティアスタッフとして活動できるまでになった。

 Tさんは双極性障害に気付くまでに10年かかった。出会ってきた同じ当事者の中にも「10年20年気付かなかった方もざらにいる」。そして、「もっと早く気付ければ、自分の人生はここまで壊れなかったのに」という感情も共通する。
 だからこそ、Tさんには、早期発見早期対処して「自分のようになってほしくない」という気持ちが強い。過去の自分と同じ状況の人に「頑張れ」とは決して言えない。でも、「こういう人もいるんだ」と知ってほしい。
 双極性障害は、その認知度が低いこともあって「(周囲に)気づかれにくいし、おかしな行動をしても人格のせいにされる。そうじゃなくて、病気のせいだと知ってほしい」。

 Tさんの目から涙が溢れた。
 前編でご紹介した就労移行支援事業所『atGPジョブトレ秋葉原第2』の施設長は、Tさんの躁状態に周りがどれだけ戸惑いを感じても、「あなたのせいじゃなくて、病気がそうさせているから」と、ずっと寄り添ってくれた。だから、安心できた。
 そこから、NPO法人ネット心理教育ピアサポートのみんなが「元気を出すまでのサポート」をしてくれた。
 そうした支援のつながりに支えられながら、Tさんはいま再び、以前と同じ就労移行支援事業所に通所している。再利用の手続きもサポートしてくれて、再び2年間利用できるよう行政にも掛け合ってくれた。『atGPジョブトレ秋葉原第2』は就職がゴールではない、長い人生が豊かになるそんな支援を大事にしている。失敗が許される場所、安心できるそんな場所からTさんは再就職を目指している。

 「当時はショッキングなことも多かったし、思い出すと辛い。それでも、病気のことも、助けてくれる制度や支援者や当事者団体もあることを知ってほしい。一歩踏み出せば、助けてくれるところは絶対に見つかる」

 辛くてもインタビューに応募してくれたTさんのストーリーが、これまで助けてくれた方々への感謝はもちろん、どこかで苦しんでいる同じ障害のある方々へのメッセージとしても、できるだけ広く届くことを願ってやまない。

【atGPジョブトレ】https://www.atgp.jp/training/
【ネット心理教育ピアサポート】https://shinrikyoiku.com/